妊娠中に尖圭コンジローマが発症することがあります。
問題点は主に2つあります。
①妊娠中は薬物療法ができません。
そのため、外科的方法を選択することになります。少し痛みを伴います。
②産道感染することがあります。
陣痛時に産道に病変があると、赤ちゃんに感染する場合があります。
赤ちゃんに感染すると、やがて若年性再発性呼吸乳頭腫症(juvenile-onset recurrent respiratory papillomatosis :JORRP)が 発症することがあります。
JORRPとは、小児の良性咽頭・喉頭腫瘍の中で、一番多い疾患です。
悪性ではないですが、場所や大きさによっては、気道が狭くなり、気管切開を要する場合があります。
その他、早産との関連を示唆する報告もあるようです。
分娩時に発症した際は?
以前は、帝王切開を勧められていました。その後色々な報告がでて、最近では帝王切開の絶対的適応でなく、ケースバイケースで対応するように変わってきました。
①帝王切開を勧める報告
Tsengtらが、経腟分娩での赤ちゃんへのパピローマウィルス感染率が51.4%に対して帝王切開での感染率が27.3%であったと報告している。
ただし、ここでの注意点は、あくまでもウィルス感染率であり、JORRPの発生率ではないことと帝王切開でも100%感染を防ぐ訳ではないというところです。
②どちらかと言うと帝王切開を積極的に勧めなくてもよいのではないかという報告
Cohenらの後方視的研究(現在行っている医療の有効性・安全性の評価を行う研究)によると、尖圭コンジローマが発症した際は(特に病変が大きいと)帝王切開で分娩となる傾向があるが、実は経腟分娩でも帝王切開でも出生時の予後(例えば、生まれて元気にすぐ泣くとか死亡率)は変わらないようです。
また、Silverbergらはデンマークの120万人の分娩統計を調べているが、妊娠中に尖圭コンジローマが認められた3033人の妊婦から生まれた新生児のうち21人(0.69%)にJORRPが発症したと報告しております。
経腟分娩であろうと帝王切開であろうと分娩様式の違いに感染率の差がないようです。
一方、妊娠中に尖圭コンジローマが認められなかった120万人の妊婦から生まれた新生児のうち36人(0.003%)にJORRPが発症しています。
つまり、肉眼的に病変が認められなくても、ウィルスを保因する妊婦が少しいるが、肉眼的に病変認められる場合の方が、JORRPの発生率が231倍と高いことがわかりました。
以上より、悩ましい時もあるのですが、個別対応することになります。
私見でありますが、妊娠中に尖圭コンジローマが認められたとしても、JORRPの発生頻度はとても高いわけではないので、分娩間際に「小さい」もしくは「減ってきている」病変ならば、経腟分娩でもよいのでないかと考えられますが、一方、帝王切開の方が赤ちゃんへの感染頻度を減らせるわけですから、「大きい」もしく「多い」病変があるときは帝王切開をどちらかというと勧めるのではないかなと思っております。
副院長 今野 秀洋
参考文献
1.Tseng CJ et.al. Perinatal transmission of human papillomavirus in infants: relationship between infection rate and mode of delivery. Obstet Gynecol. 1998 Jan;91(1):92-6.
2.Gomez LM et al. Placental infection with human papillomavirus is associated with spontaneous preterm delivery. Hum Reprod. 2008 Mar;23(3):709-15.
3.Cohen E et al. Perinatal outcomes in condyloma acuminata pregnancies. Arch Gynecol Obstet. 2011 Jun;283(6):1269-73.
4.Silverberg MJ et al. Condyloma in pregnancy is strongly predictive of juvenile-onset recurrent respiratory papillomatosis. Obstet Gynecol. 2003 Apr;101(4):645-52.
5.Hamouda T et al. Management of genital warts in pregnancy. Clin Exp Obstet Gynecol. 2012;39(2):242-4.
6.川名 敬;HPVとその疾患 モダンメディア 58巻 12号 2012
2014.06.07更新
妊娠中の尖圭コンジローマについて
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