妊娠初期に採血を行いますが、その検査項目の一つに血液型や不規則抗体というものがあります。
血液型についてご説明します。
有名なものにABO式があります。
これは赤血球表面などから出ている「糖鎖」というものの構造の違いで分類されています。
ABO式ではこのように分類されます。
例えばA型の血液には、A型の糖鎖をもつ赤血球とB型の血球の糖鎖にくっつく抗体(抗B抗体)があります。
B型の血液には、B型の糖鎖をもつ赤血球とA型の血球の糖鎖にくっつく抗体(抗A抗体)があります。
もしA型の人にB型の血液を輸血した場合、A型の血液に含まれる抗B抗体と輸血したB型赤血球
が結合してしまい、赤血球が壊れてしまいます(溶血といいます)。
(この際の輸血した抗A抗体は数が少ないのであまり問題となりません。)
輸血量が多いと、溶血からさらに腎不全、ショックと進行してしまいますが、これは他稿に譲ります。
実は赤血球には、このABOだけでなく、非常にたくさんの糖鎖があります。
(たくさんの血液型があると言えます。)
この糖鎖に対する抗体が不規則抗体です。
不規則抗体には、前述のABO式の様に自然にもともと持っているものと、輸血や妊娠をきっかけに抗体ができたものとがあります。
不規則抗体の頻度は?
全妊婦さんで2〜3%くらいです。
妊娠中に不規則抗体が問題になる理由は?
(お母さん側の問題)
先程述べたように、溶血しないように輸血をせざるを得ない場合は、持っている不規則抗体が反応しないような赤血球を探さなくていけません。
(胎児側の問題)
胎盤を通してお母さんの不規則抗体が胎児にいってしまうことがあります。
つまり胎児に輸血したような状態になるのです。
胎児の赤血球が溶血すると、胎児貧血がおこり、胎児水腫(全身のむくみ)、心不全が生じる可能性があります。
また、出生後に新生児貧血や黄疸を生じることもあります。
溶血の結果生じる間接ビリルビンというものを妊娠中は胎盤を通して母親の肝臓で分解します。
生まれたばかりの赤ちゃんは間接ビリルビンの処理する能力が弱いので蓄積されやすいです。
この結果非常にまれですが、脳神経に障害をきたす場合もあります。
ただし、すべての不規則抗体が問題になるわけではありません。
分子量が大きくて胎盤を通過しずらいものや常温では反応しない抗体もあるからです。
特に図の中の「重要」と「可能性あり」が胎児に影響がある場合があります。
妊娠中の管理は?
溶血・黄疸で治療を要するのは、文献によると約25%くらいです。
(重症化しやすいRh不適合妊娠をのぞくと11.5%程度です。)
残念ながら予防方法はありません。
定期的に間接クームス検査や抗体価検査を行い評価して、また胎児超音波検査で、胎児水腫や胎児貧血のチェックをして早期発見をします。
そして生まれた後は毎日黄疸の検査を行います。
次回は、お母さんがRh陰性であった場合のお話をしようと思います。
副院長 今野 秀洋
(参考文献)
1. ACOG Practice Bulletin No. 75: Management of alloimmunization during pregnancy.
Obstet Gynecol. 2006;108(2):457-64.
2. 大戸斉;新生児溶血性疾患と母児免疫. 輸血学(改訂第3版);中外医学社 2004:512-521
3. 稲岡 千佳子ら;当センターにおける不規則抗体陽性妊婦と出生児溶血性疾患についての考察;Jpn J Trans Cell Therapy. 2013;59(3):86-491
4. 内川 誠;不規則抗体をもつ患者の輸血について;CLINICIAN 1994;432:699-701
5.日本産婦人科学会 産婦人科診療ガイドラインー産科編2014
2014.08.14更新
不規則抗体が陽性と言われました。
投稿者:
2014.08.02更新
円錐切除術を受けた方の妊娠について
最近、子宮頚がんが増えています。特に20代、30代の発症が増えており、発症年齢のピークが39歳と比較的若いです。
若年層(20〜40歳代)発症の場合は、がん克服の問題もありますが、進行がんであった場合、子宮全摘をします。そうすると今後妊娠することができないという問題点がでてきます。
若年者にて前がん病変ないし早期がんであった場合は、治療後にも妊娠が期待できるように、子宮頸部を図のように円錐状にくり抜いて、子宮を温存する手術(円錐切除術)を行います。
(早期発見の為に、子宮がん検診の受診をお勧めします。(http://www.sanolc.com/blog/blog/2013/10/)
この治療で済む場合は、ほとんど方が治癒することができます。そして妊娠が可能です。
しかしながら妊娠をする観点から言うと、少し問題がでることがあります。
問題点とは?
手術後に本来閉じてあるべき子宮口が開きやすくなることがあります。
つまり早産になりやすいのです。
その頻度は報告によると早産率8〜23.7%で、1.7〜4.4倍増えると言われています。
妊娠週数での発生頻度は変わりありません(いつでも起こります。)
円錐切除術の方法として、コールドナイフ、レーザー、LEEPなどいくつかあります。
レーザー蒸散法は早産率が比較的低いと言われていますが、その他どの手技でも発生率は変わらないようです。
ただし、深く、くり抜いた場合は早産率は高くなります。
(17mm以上の場合 40% vs 17mm未満 8.3%)
また妊娠期間中に早産傾向を早めに発見するために、経腟超音波検査で頚管長を測定しています。
切迫早産の場合、子宮口開きかけるので、この部分が短くなります。
円錐切除術後も同様で、妊娠16〜24週の時点で、25mm以下の場合(通常は40mmくらい)は早産になる可能性が高くなります。
早産予防の方法は?
残念ながらこれといった予防方法はありません。
子宮口が開いている頚管無力症という状態に対して、頚管縫縮術という方法があります。
要するに、緩んでいる子宮口を縛ってしまおうという発想です。
以前は、よくこの手術を円錐切除後の妊娠の方に試みていましたが、以下のような報告があります。
頚管縫縮術施行した人 30人 vs 施行しなかった人 39人
早産率はそれぞれ、23.3%、20.5%(p=0.78)と有意差はみられませんでした。
むしろ頚管縫縮術施行した人の方が、切迫早産となり長期入院を要した(60.7% vs 33.3% (p=0.06))ようです。
もちろんこの手術が有効となるケースもありますので、一概には言えませんが、少なくとも全例に頚管縫縮術を行う必要はないと最近では考えられています。
副院長 今野 秀洋
(参考文献)
1.関 典子ら;円錐切除後妊娠における円錐切除の高さと早産との関連性についての検討;産婦人科の実際;58;2191-2194;2009
2.楠木 総司ら;当院におけるcold knifeを用いた子宮頸部円錐切除術および術後妊娠の検討;日産婦千葉地会誌;4 ;28-31;2010
3.Kyrgiou M et al. ;Obstetric outcomes after conservative treatment for intraepithelial or early invasive cervical lesions: systematic review and meta-analysis.
;Lancet;11;489-498;2006
4. Masamoto H, et al.;Outcome of pregnancy after laser conization: implications for infection as a causal link with preterm birth.;J Obstet Gynaecol Res;34;838-842;2008
5. Berghella V,et al. ; Prior cone biopsy: prediction of preterm birth by cervical ultrasound. ;Am J Obstet Gynecol;191;1393-1397;2004
6. Zeisler H, et al.;Prophylactic cerclage in pregnancy. Effect in women with a history of conization.;J Reprod Med;42;390-392;1997
7. Albrechtsen S, et al.;Pregnancy outcome in women before and after cervical conisation: population based cohort study.;BMJ;337;a1343;2008
8. Bevis K, et al.;Cervical conization and the risk of preterm delivery.;Am J Obstet Gynecol. 205;19-27;2011
9.日本産婦人科学会 産婦人科診療ガイドラインー産科編2014
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