トキソプラズマとは?
ネコを終宿主として、ヒトや家畜を中間宿主とする寄生虫です。
ヒトへの経路は2つあります。
①ネコの糞便に排出された、トキソプラズマのオーシストが、手やハエ・ゴキブリを介して食品に運ばれ、経口的に侵入する。
②ブタ、ヤギなどの加熱不十分な肉を摂取して侵入する。
感染した場合の症状は?
不顕性感染が多いですが、以下のような症状がみられることがあります。
①リンパ節腫脹(約7%)
②全身倦怠感
③発熱
④頭痛
健康な方であれば、重症化せずに自然治癒します。
採血で抗体価を調べればわかります。
感染から、おおよそ2週間で抗体価が上昇します。
しかしながら妊娠中にお母さんが感染すると、赤ちゃんに移行する場合があり注意が必要です。
子宮内感染した場合は?
お母さんが感染してからおおよそ数週間から数ヶ月で赤ちゃんに移行する場合があります。
この場合は定期的に超音波検査で確認していきます。
超音波検査上、赤ちゃんへの感染が疑われるような特徴的な所見が見られた場合は、精密検査を行い、お腹の中にいるときから治療を開始します。
日本では年間おおよそ10人の先天性トキソプラズマ感染症が発生しているようです。(海外ではもっと多いです。)
妊娠中の赤ちゃんへの感染率は週数によって異なり、妊娠後期になればなるほど高率に起こります。
しかし、妊娠初期に感染した場合は胎内死亡や流産を起こしやすく、生存したとしても重症例となります。後期の感染では無症状のこともあります。
特に妊娠24週から34週あたりの感染が、先天性トキソプラズマ感染症として後遺症を残す可能性があると思われます。
生まれてきた赤ちゃんの起こる症状は?
以前の論文で、未治療であった156人で調査したところ
死亡率 12%
精神発達障害 93%
てんかん 70%
麻痺 70%
視力障害 60%
だったそうです。
一方、妊娠中に治療できた153人の先天性トキソプラズマ感染症の方の平均54ヶ月フォローアップできた調査では
死亡率 0.6%
眼の症状(網脈絡膜炎) 21.5%
水頭症 1.3%
とのことでした。
先天性トキソプラズマ感染症を予防するには?
妊娠初期に抗体価を調べます。
抗体を持っていない方は約9割いるようです(ある調査では、抗体を持っている方は、東京近郊で7%、兵庫で6%、南九州で15%くらいでした。)
抗体を持っていない方は、以下のように注意して下さい。
①野菜や果物はよく洗って食べる。
②食肉は加熱(66℃以上)して、もしくは冷凍して(-12℃以下、24時間)食べる。
③調理器具をよく洗浄する。
④ガーデニングなど土などを触る時は、手袋をする。
⑤ネコと接触に注意する(糞便の処理をなるべく避ける)。
(産科ガイドライン一部改変)
最近の事情では、どちらかというとネコとの接触より食べ物が問題となるようです。
もし妊娠前にトキソプラズマに感染してしまったら?
少なくとも3ヶ月から6ヶ月は妊娠を控えることをお勧めします。
トキソプラズマ感染症はお母さんが気をつけることで、後悔を避けることができるかもしれない病気です。
これから生まれてくる子供の為に、気をつけてあげてほしいと考えております。
副院長 今野 秀洋
(参考文献)
星野 達二ら;当院で2009~2011年に測定されたトキソプラズマ抗体検査とトキソプラズマ感染症例について; 産婦人科の実際;2014;63(4) ;569-576
2. 佐藤 孝洋ら【性感染症と母子感染-最新の診断と管理】 母子感染 最新の管理法 トキソプラ
ズマ;臨床婦人科産科;2013;67(1); 93-98
3. 村林 督夫ら;【小児の治療指針】 感染症 先天性トキソプラズマ症;小児科診療;2014;77(増刊 );139-140
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14. 丸山有子;妊婦のトキソプラズマ感染;周産期診療指針 2010 産科編;40(増刊);264-267
15. 日本産婦人科学会 産婦人科診療ガイドラインー産科編2014
2014.10.22更新
妊娠中のトキソプラズマ感染について
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