妊娠が判明して病院にいらした方のうち、胞状奇胎と診断するケースがあります。
胞状奇胎とは1/500妊娠の頻度でおこる、異常妊娠の一つです。
正常ではない受精により生じ、正常な妊娠継続を期待できない病気です。
胞状奇胎には、全胞状奇胎と部分胞状奇胎の2つのタイプがあり、それぞれ発生機序が異なります。
(1)正常な受精
23XX(もしくは23XY)の染色体を有する精子に、23Xの染色体を有する卵子に入ると、46XX(もしくは46XY)の染色体を有する正常の受精卵となります。
(2)全胞状奇胎
なぜか卵子から染色体が無くなり、そこに23XXの染色体を有する精子が侵入すると(つまり精子の遺伝子だけの入った受精卵ができる)、正常な胎児できず、絨毛組織の異常となり全胞状奇胎が発生します。
ちなみに23XYの染色体を有する精子が侵入した場合は死滅します。
(3)部分胞状奇胎
部分胞状奇胎の最も多い原因は2精子受精といわれ、正常な卵子に2個の精子が同時に受精することで発生します。
どういう人がなりやすいの?
①若年妊娠もしくは高齢妊娠
15歳以下あるいは35歳以上の方が、比較的発生しやすいです。
②胞状奇胎の既往がある
前回の妊娠が胞状奇胎であった場合、次に胞状奇胎となるリスクは10-15倍となります。
③流産を繰り返している
2回以上の流産の既往がある場合、次に全胞状奇胎となるリスクは、3.1倍、部分胞状奇胎となるリスクは1.9倍となります。
自覚症状はありますか?
主な症状は、不正出血・骨盤の違和感・悪阻(つわり)ですが、このような症状は通常の妊娠でもみられるので、症状だけで判断は難しいと思います。
どうやって診断するのですか?
超音波検査とhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)という妊娠中に産生されるホルモンの測定をして判断します。
典型的な胞状奇胎の場合、超音波検査検査で特徴的な所見があります。
しかし、流産と鑑別が難しい場合もあり、hCGを測定して(胞状奇胎の場合、正常妊娠にくらべて数値が高くなります。)総合的に判断することが多いです。
どうやって治療するのですか?
流産と同じように子宮内容除去術を行い、顕微鏡検査で最終確定診断となります。その後一週間後に再度子宮内容除去術を行い、胞状奇胎が完全に除去できたかを顕微鏡検査で確認をします。
手術後はどうなるの?すぐ妊娠をしてもよいのですか?
良好な場合、定期的に外来通院し、hCGが正常値になるまで測定していきます。早い方だと3ヶ月くらいで正常値になりますが、目安は6ヶ月です。
順調であれば、約6ヶ月で次の妊娠の許可がでます。
しかし、hCGの下降が順調でない場合、侵入奇胎(全体の10-20%)や絨毛癌(全体の1-2%)を疑います。この場合は、精査や追加療をするために高次施設へご紹介しています。
侵入奇胎とは子宮筋層に胞状奇胎の細胞が侵入して腫瘍を形成する病気です。また、肺へ転移する場合もあり、ある意味「癌」とも言える状態です。多くは手術後6ヶ月以内に発生します。
妊娠が判明して喜んだと思ったら、胞状奇胎と言われて、大変ショックを受けられると思います。
しかしながら、妊娠が進むにつれて、胞状奇胎は進行し、手術による危険性もあがります。
そのため胞状奇胎と診断された場合、速やかに手術を受けることをお勧めします。
手術後、残念ながら順調ではない経過で、胞状奇胎や絨毛癌が疑われた場合もまた速やかな次なる治療を勧めます。手術後は少なくとも6ヶ月の通院経過観察となりますが、早めの対応が良いので、必ず受診するようにしてください。
院長 今野 秀洋
(参考文献)
1.絨毛性疾患取扱い規約第三版;2011
2.絨毛性疾患アップデート:臨床婦人科産科;66(8);2012
3. 渡邊 直子ら;取扱い規約改定後に当院で経験した絨毛性疾患の検討;山梨産科婦人科学会雑誌 ;16(2);10-17;2016
2016.10.11更新
胞状奇胎って何ですか?
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